試行錯誤の制作
重石 晃子
私は具象絵画の道を歩き続けているが、物の形を写したいのではない。物の存在感を描きたいと思っている。目の前にある「物」の発する輝かしさを、どのように造形すれば良いのか、
それはとても難しいことだけれど、私はその難問に魅せられて絵筆を握って来た。「具象でも抽象でも、その物の本質を表現してこそ本当の絵だ」と教えてくださった深沢先生ご夫妻のこの言葉は、
一生の指針として私の心にある。
いつも見慣れている身の周りの物や風景が、描こうと思って見つめれば、初めて目にしたような新鮮な存在であることに驚く。造形的な色や形を発見するばかりでなく、そこには絵心を誘う様々な要素が隠されている。深沢先生のおっしゃる「物の本質」を描くカギは対象を集中力を強めて見つめることだと私は思っている。
私の制作テーマの主なものは風景である。戸外に出ての取材スケッチはとても楽しい。自然の中に神秘を感じ、地平線の彼方へのあこがれを、絵の中に塗り込みたい。小鳥のさえずり、梢をわたる風の音までも描き込みたい。そう願いながら筆を握る、それは私にとって至福の時である。目の前に広がる風景が私の心象と重なる時、はっきりした画面構成と色彩が見えて来る。後はそのイメージに向かってキャンパスに絵具を塗るだけの作業だが、先ず画面から不必要な物を消してゆく。
単純にすればするほど画面が発する言葉は多くなり、目に見えない多くの物を感じさせるだろう。
単純な要素は見る人に空想させ絵の中に誘い込む力があるはずだ。風の音は聞こえるか、土の暖かさは感じるか、試行錯誤の制作である。
もし、画面の中に意図したように美しい絵が出来上がったとして、誰かがこの絵の中に、私と同じ心象を重ね合わせることが出来たなら、この絵は命を得るだろう。それは普遍性につながるのかも知れない。そんな夢を見ながら、一筋の道を歩いている。
重石氏はスライドで沢山の作品を見せて下さり、講演会は終わった。
懇親会は小林千恵子幹事の司会、臼井由紀子先生の乾杯ではじまったが、自己紹介の席上多くの方が重石晃子氏に感謝と喜びを伝えた。
幹事 及 川 みどり
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