家と人をめぐる視点

第10回

子ども部屋の考え方と「可変性プラン」。

住宅・生活誌「家と人。」編集長 加藤 大志朗

機能を追求すると個室だらけの家になる

私が生まれたのは6帖一間、台所・トイレ共用、風呂なしという鉄道官舎でした。小学校に入る前に自宅が建てられましたが、18坪の平屋。部屋はあってないようなもので、一つの空間を障子やふすまで仕切り、食事のときは卓被台(ちゃぶだい)で食べ、片づけて布団を敷いて寝室にするといった具合の貧しい家でした。

高校受験の頃になってようやく、無理やり壁を設けて3帖ちょっとの勉強部屋が与えられました。それまでは母が内職で使っていたミシンや卓袱台が勉強机だったのです。

夕食後ほどなくして、父も母も、そそくさと布団に潜り込んでいたのは、私が少しでも勉強できる環境をつくっていてくれたのかもしれません。

その後、日本では住宅不足が深刻になり、最小限の面積で暮らせる間取りとして2DKという間取りが考案されました。当時の住宅公団が考えた苦肉の策でしたが、日本の家はそれを機に、和室よりも洋室が好まれるようになり、狭い面積のなかに寝室、子ども部屋が設けられ、戸建て住宅までもLDKという、実は世界に例のない日本式間取りが普及していくのです。

人数分の子ども部屋、食事のための部屋、くつろぐ部屋、家事のための部屋、読書のための部屋、趣味のための部屋、来客用の部屋、モノを隠す部屋…と、目的や機能を「個室」に置き換えると、いくら面積があっても足りません。

住宅会社は、そんなところでは本も読めません、家事動線が足りません、のんびりできる時間がなくなります、などとありとあらゆる脅しをかけてきますが、書斎で読書に熱中するお父さん、家事室で家事に励むお母さんの姿をあまり見たことがないのは私だけでしょうか。

子どもの「居場所」は個室ではない

子ども部屋にも同じことがいえます。子どもが2人だから子ども部屋は2室、3人なら3室、4人なら4室と人数分の個室を設ける前に、ちょっと立ち止まってほしいのです。

子どもにとって、プライバシーが必要なのは中学生くらいから。それまでは両親の気配を感じるところで過ごす時間が多いことは、誰もが認めるところでしょう。

長男・次男・三男・長女を全員、「東大理III」に合格させたお母さんとして知られる佐藤亮子さんは「子どもが一人で勉強することは、親が思う以上につらいもの」と考え、リビングを勉強のための空間とし、いつも母親の隣で学習できる環境をつくりました。「やるべきことをリビングできちんとやらせ、子ども部屋は寝るだけの場所にすることを徹底した」のです。就寝の際には、スマホ・ゲーム・マンガなどは持たせず、すぐ寝るようにする習慣をつけたとも述べています。

家づくりの際、間取りを考えるキーワードは、大空間と曖昧性(グラデーション)、可変性の三つです。

閉鎖する個室は夫婦の寝室のみで、あとは開けたり閉めたりできる空間とし、子ども部屋も人数分で仕切ることより、最初は大きなワンルームとして考えます。

子どもが2人の場合、例えば8帖×2=16帖というのがこれまでの発想でしたが、12帖を確保しておき、受験期や思春期になってから二つに仕切るようにする。2室の間仕切りを壊すのは大変ですが、将来の間仕切りが想定された1室を仕切る工事は1日で済みます。

これで2坪の削減となり、単純計算ですが建築費が坪60万円として120万円の節約になります。

子どもたちの独立後は元の空間に戻し、加齢後の両親の趣味の空間や客間として使用することもできます。「子どものための」という機能に縛られず、曖昧に空間を考え、生活の変化に応じて機能を変えるこのようなプランを「可変性プラン」といいます。

子どもの居場所を家のなか全部と考えれば、リビングやダイニング、床やソファの上、階段までも勉強スペースとなります。

テレビの音が気になるときは、大人たちがテレビを消せば済む話。そうした気持ちの往還で、子どもたちは人を思いやる心や礼節を身につけていくのではないでしょうか。

建築としての「家」は住宅会社がつくりますが「うち」は家族みんなでつくるものです。


初めは一つの大空間とし、将来、必要なときに仕切れるようにドアを二つつけておく(可変性)。ホールにもデスクを設置し、誰でも自由に使える曖昧な空間とすると家族の気配のなかで子どもの学びの空間ができる。


子ども部屋のなかでも開閉自在。リビングとも開閉自在。機能を固定せず、自在にすることで暮らしに奥行きが生まれる。


キッチンに設けられたカウンターはお母さんの家事コーナーであり、子どもたちの勉強・読書のコーナーにも。

かとう だいしろう (文・写真)
Daishiro Kato

1956年北海道生まれ。編集者。住宅・生活誌「家と人。」編集長。これまでに約20カ国を訪れ、国際福祉・住宅問題などの分野でルポや写真、エッセイを発表。住宅分野では30年にわたり、温熱環境の整備と居住福祉の実現を唱えてきた。主な著書に『現代の国際福祉 アジアへの接近』(中央法規出版)、『家は夏も冬も旨とすべし』(日本評論社)など。岩手県住宅政策懇話会委員。出版・編集を手掛けるリヴァープレス社代表(盛岡市)。

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