《特別講演》−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「アレルギー病はなぜ増えたか、
         きれい好きの功罪検証 (講演要旨)

座長/小 林 照 尚 専務理事

講師/東京医科歯科大学大学院国際環境寄生虫学部教授
藤 田 紘一郎 先生

 座長の小林専務理事から講師の紹介があり、講演が始まった。非常に素晴らしい講演で、講師の藤田先生の軽妙洒脱な語り口で聴衆が全く飽きることが無い内容で示唆に富むものであった。以下が内容である。
 現代の日本は、殺菌・抗菌社会であり、過剰な反応は若者の中に極限の消臭社会に移ってきている。 「オジン臭い」 とかあるいは 「学校のトイレでは排便をしない」 とか。 「臭い」 がイジメの原因にさえなっている。振り返ってみると1950年代の回虫の感染率は日本国内で約60%であり、回虫駆除のために特効薬として海人草を使用した経験がある。しかも、日本国内には40年前まではアレルギー疾患(アトピー性皮膚炎・喘息・花粉症等)は全く無かった。先生は整形外科医としてスタートし、35年前にインドネシアのカリマンタン島に研究に行った時、排泄物(先生は直截に”ウンチ”と)の流れる河で子供達が平気で泳いでいる。しかも、輝いた眼と黒光りした綺麗な皮膚をして、こぼれる様な笑顔で病気と全く関係が無いように伸び伸びとして生活している。その河で排便して歯を磨いて体を洗うのであるが、アトピー性皮膚炎も喘息も花粉症もない。その後35年間同地で調査をしているが、住民の寄生虫や細菌の感染状況は35年間全く変わりがなく、相変わらず我々が考える汚い河に依存した生活を営んでいる。日本人にアレルギー疾患が増えたのは、日本人の体内から回虫が消えたからではないか、回虫がアレルギー反応を抑えるのではないかということを考え、野犬のフイラリアからアレルギーを抑える薬が無いかとフイラリア原虫を集め、洗って、干してすり鉢ですり潰す毎日が続いた。その結果、その物質が寄生虫分泌排泄液の分子量約2万のタンパク質がアレルギー反応を抑制していることが分かった。その抽出液を作成し、ネズミに人為的にアトピー性皮膚炎を起こして、遺伝子組み換えで増やした抽出液を服用させると非常に綺麗に治る。サルにも花粉症がありますが、増えてはいません。増えているのは人間だけ、その理由は寄生虫が人間には少なくなったからではないか。1万年前、私たちはジャングルや大草原を裸で走っていた。回虫をはじめ多くの寄生虫が私たちの体に進入してきた、しかし、その当時は、私たちの体には 「回虫担当免細胞」 がいて、回虫が侵入してきたら 「いらっしゃい」 とお茶を出してもてなす免疫細胞がいた。結核菌がやってきたら 「困る」 という 「結核菌担当免疫細胞」 がいた。ウィルスがやってたら、体内に侵入を阻止する 「ウィルス担当免疫細胞」 が体の中にいた。しかし、私たちは1万年を費やして 「キレイ社会」 を作ってきた。その過程で体内から回虫を追い出し、結核菌やウィルスを排除した結果、私たちの体には 「回虫担当免疫細胞」 をはじめ、たくさんの職を失った免疫細胞が存在するようになって、その職を失ってブラブラしている各種免疫細胞は、これまで相手にもしなかった花粉に反応して花粉症を起こし、ハウスダストの中のダニの死体に反応しているのが、気管支喘息であり、アトピー性皮膚炎である。 「きれい社会」 が新たなる疾患を生み出しているのです。私は自分の体内にサナダ虫を飼育しております。 「キヨミちゃん」 と名付ておりますが、私は 「キヨミちゃん」 のお陰で一切のアレルギー疾患はありません。寄生虫と人と共生することで宿主を大切にするというのが証明されている。私はそれを自らの体で証明しているわけであります(了)。
 講演終了後、懇親会が開かれた。メーンテーブルでは永井会長、来賓の皆様と講師の藤田先生が飲食されたが、藤田先生の 「キヨミちゃん」 も一緒かと思うと勇気のある方々であると思ったし、眞瀬理事長も近い席におられたので心配ではなかったのかと思った。これほど飲食の場にそぐわないテーマも無いものだと思った。以前から病気を経験した医師ほど素晴らしい医師はいないというが、自分自身の体にサナダ虫を寄生させ実験的なことをするとは、無謀としか思えないが、飲食のテーブルは藤田先生と共にしたいとは思わなかった。是非、一度は先生の講演を聴くことを薦める。逆転の発想とも言うべきである。

<いわて医師協同組合常務理事 菅原克郎>


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