事業継続・承継と税務対策について(要旨)

U 相続財産の評価の引き下げ
(1)小規模宅地等の特例
 被相続人又は被相続人と生計を一にしていた親族の事業用又は居住用の宅地等のうち限度面積までの部分の評価額は、通常の評価額の20〜50%となる。
※病医院の建物建築の際、名義に留意。
 大先生と奥さんと若先生が事業用又は居住用の宅地の評価額は、80〜50%減額されるということで利用していただきたいが、良く間違えてしまう事例を示しますと、土地が大先生の名義、建物も大先生が開設者・管理者、若先生が勤務医を辞めて事業承継をすることになり、建物を建て替えて新しいものにする時に、大先生が親心で若先生が不動産を何も持っていないので若先生の名義にしようとします。若先生が帰ってきたので医療法人にして新しい建物を医療法人に賃貸する。これは絶対やっていけないことなのです。建物の名義も大先生のものにしておかないと大変なことになります。小規模宅地等の特例が受けられないのです。大先生の名義にしておけば、相続時に一定面積まで土地の評価額が80%下がるのです。息子さんの名義にするこれが受けられない。二つ目は、土地の評価が21%下がります。建物の評価が30%下がりますということも大先生の名義にしておかないと受けられません。建物を建てる時に銀行から借り入れをおこしますと、例えば1億円借りたとしたら1億円借金が増えるかというと固定資産税評価額ですから5千万円しか増えないのです。と言うことは、借り入れで建物を建てたことでさらに50%下がることになります。つまり、息子さんの名義でなく大先生の名義にしておきますと小規模宅地の特例80%減、その前に土地の評価が21%減、さらに建物が固定資産税評価額なので50%減、さらにそこから30%下げられる。建物は実質35%の評価額になってしまいます。経営上の大きな意思決定をする時には、きちんと専門家に聞いてから行わないと後で大きな損になることがあります。
(2)医療法人の出資持分
 法人化した後で、如何に相続税の負担を軽減するかが下記の方法です。
@ 病医院の建物の改築、新築移転のタイミングを活用
⇒出資持分を評価する際、建物の評価は帳簿価額から固定資産税評価額に置き換わる
⇒3年経過後、出資持分の評価が下がった時点で贈与
 病医院の建物を法人の名義にする時に、例えば3億円の建物を建てる時に、全額借り入れします。建物の完成3年後になりますと、医療法人の出資持分を評価するときに建物の評価を固定資産税評価額に置き換えても良いですよという規定があります。これを使うと借入金は3年間元金を返済しなくても建物は1億5千万円、結果的に1億5千万円内部留保が消される。医療法人が利益を出していたとしても内部留保が減らされるわけであります。これは出資持分の評価が上がったとしても非常に使いやすい税務通達なのです。病院・老健を経営している先生には、非常に良いと思います。仮に今まで内部留保が1億円あったとしても、1億5千万円マイナスだから医療法人の出資持分がゼロになります。そうすると贈与税を払わないで持分を若先生名義に換えることが出来ます。
A 生前退職金の支給
 退職金は万が一にも支給出来ますが、元気な間にも支払が出来ます。法人で理事長を若先生に譲りまして、大先生は理事に留まってはいけないのですが、非常勤の理事、あるいは顧問とか相談役とかの名義に換えます。今までの役員報酬を50%以下に下げます。300万円だったら150万円以下に下げます。すると退職金が払えることになります。役員報酬×在任期間×功績倍率の退職金が払えます。そうすると医療法人がその分支給しますので出資持分の評価が下がります。出資持分の評価を下げて若先生に贈与すると言う方法も出てきます。
B MS(メディカルサービス)法人に対する出資持分の譲渡
 株式会社の医療法人経営とは違って、御自身が持っている出資持分をご親族が経営している会社に売るということは、厚労省も認めている。厚生省通知があって営利法人が医療法人の出資持分を取得することは法的に可能という見解を示しています。裁判判例でも認められている。これをやりますと個人の持ち物でなくなってMSの持ち物になる。相続税の対象から外すことが場合によっては出来ます。
C 医療法人間の出資持分の持ち合い
 医療法人を作る場合に、ご夫婦二人とも医師であり、A(夫)が整形外科でAという医療法人、B(奥様)が眼科医である場合、普通ですと整形外科・眼科という一つの医療法人にすることが多いのですが、これを二つの医療法人を作ります。これだけだと意味は無いのですが、A先生は自分が持っている法人の出資持分を医療法人Bに売ってしまう、B先生はご自分の法人の出資持分を医療法人Aに売ってしまう。結果的に医療法人Aの出資持分は医療法人Bがもち、医療法人Bの出資持分を医療法人Aが持っている。A先生に万が一のことがあってもB先生に万が一のことがあっても永久に相続税がかからないことになります。しかし、これにも致命的な欠陥があります。
 二人の関係が良ければ問題がないのですが、夫婦間に問題が生じれば問題があります。お互いの絆を強くしてもらうためにもこの案を提案しております。
D特定医療法人化
 これは最後の手段です。個人財産でなくなってしまいます。財産権の放棄です。


目次へ前のページへ次のページへ