人物クローズアップ vol.10
1人1人の患者さんが健康を保ち
一緒に人生を歩んでいけることが
私の医師としての幸せです
千田クリニック副院長
千 田 恵 美(北上医師会)
病気を漫画でわかりやすく
主人の故郷である北上市で開業したのは平成11年のことで、現在、私はリウマチなどの自己免疫疾患を中心に一般内科医として診療しています。患者さんは女性の、それも中年期の方が多いので、いつの間にか更年期外来おばちゃんになって(笑)、人生相談にのっていることも多々ありますね。
病気の症状や対処の仕方を漫画で描いているのも自分なりに考えた啓蒙の一環です。更年期に悩む女性の中には、脳外科や精神科、心療内科を転々とし、ストレスで心の健康をむしばまれていく人もいます。漫画付きの資料で説明するとわかりやすいし、私の症状もそうなのかな?知り合いにもこんな人がいたな、などと入ってきやすい。「さらば生活習慣病」と「それゆけ更年期!」、うつ病を題材にした「3年B組熊八先生」は、話がつながっている三部作です。
大学の美術の先生だった祖父の血が流れているらしく、漫画を描くのは子供の頃から好きでした。小学校の時に担任の先生の似顔絵を描いて授業中に回覧し、立たされたこともあります。漫画家になりたい思いもあったのですが、それほどの腕もなくてあきらめました。
たまたま北上医師会の会報で似顔絵を依頼され、お世話になっている先生方への恩返しのつもりで描いてみたら大変喜ばれたんです。以来、「きたかみ医報」では編集委員になって挿絵を担当していますし、疾患について理解を深めてもらえるよう漫画入りの独自のパンフレットを作って、講演や健康セミナーなどでお渡ししています。漫画にすると家に帰ってもう一度見てくださる。二度見の効用があるんです。
平成21年に読売新聞の「ひと」欄に載ったのをきっかけに、北海道大学名誉教授の小林博先生からスリランカでの健康教育の教材として漫画作成を依頼されました。書き上げるまで半年かかりましたが、それが英語とシンハリ語(スリランカの公用語)に翻訳され、現地の子供たちに配布されました。自分の漫画が海を越え、地球の反対側の子供たちが手に取って見てくれていると思うと感無量です。
医師の道を目指して
医師の道を選んだのは、両親の背中を見ていたことが大きいですね。二人とも医師でしたが、実は大学病院の教授で研究肌だった父よりも、「町の開業医」であった母の存在のほうが大きいように思います。「開業医は何でも相談できる交通整理係みたいなもの」といつも話していた母は、常に父を支えて家庭を切り盛りしながら開業医を続けました。患者さんに寄り添い、何でも相談できる町医者。そんな母親の姿を見て、私も自然に医師の道に進みました。
もう一つ、漫画の「ブラックジャック」の影響もあります。これは熱中して全巻読みました。その中で一人一人の患者さんの人生を垣間見、医師はその患者さんの幸せな人生をサポートする大事なチームの一人であると実感しました。
医師になって大切な教えを受けたのは、初めてのトランクでオーベンだった福岡病院(現・二戸病院)の村上静一先生です。村上先生は、「医療従事者は見た目が大事。百貫デブの先生に、やせなさい、とは言われたくないでしょう」「特に女医さんは疲れた顔を見せないでね」と当直明けに休みをくれました。先生の教えは、「医師が元気でないと患者さんも元気になれない」ということだったのです。ずっとそれを守り、とにかく元気に明るく!をモットーにしてきたのですが、その村上先生が東日本大震災で亡くなられました。本当に残念で悲しいことですが、これからも先生の教えを忘れることなく、前を向いていこうと思います。
一診察一笑、ときどき野球
私は子供のころ肥満児でした。あまり可愛くなかったので母親から「女は愛嬌。多少めぐさくても愛嬌があれば何とかなる!」と言われてきました。そんなこともあっていつも明るくいようと心がけていますが、私が普通に話していても、なぜか周りの人は「千田さん、おかしい!」と笑うんです。それが現在の診療に生かされており、私は「一診察一笑」、一回の診察で、最低一回は笑ってもらうことをポリシーにしています。笑いはその人の心を開き、ふと気持ちが緩んで本音を言いやすい。お互い、シンパシーを感じるきっかけになると思っています。笑いのツボは毎週「笑点」でしっかり学んでいます。
休日は野球で気分転換しています。子供のころに「巨人の星」を読んで絶対、野球をやりたいと思い、小学校の低学年から近所の男の子たちと千本ノックなどをして遊んでいました。高学年のときは野球部に入部し、中学ではソフトボール部に入りました。趣味で野球を続け、医者になってから主人の医師会野球について行ったとき、私より下手な人もいたので「私も出ます!」って(笑)。それから北上医師会の野球同好会に入り、二〇〇一年には日本医師会の野球大会に岩手医師会を代表して出場し、憧れの東京ドームでプレーさせていただきました。今もシーズン中は週一回、仕事を終えてからナイターで練習しています。
今後はなるべく長く現状維持でやっていきたいですね。女医であること、大病院ではない開業医だからこそ、私にしかできない部分も少しはあると思うのです。データだけ見ていても病気はよくなりません。一方的ではなく、患者さんの疑問や不安を減らすように、どうしたらよくなるかを患者さんと一緒に考え、一人でも多く不安を持っている方の手助けをしたい。たくさんの人は診られないし、一介の開業医ができることは限られていますが、一人一人の患者さんが健康を保ち、一緒にゆっくり人生を歩んでいけることが、私の医師としての幸せです。
ちだ・えみ
1965年仙台生まれ、秋田育ち。1990年岩手医科大学医学部卒業。第三内科(現在の呼吸器・アレルギー・膠原病科)に入局。1994年に医学博士を取得、1999年に夫の雅美さん(第一外科出身)と一緒に北上市に千田クリニックを開業。リウマチなどの膠原病を中心に診療している。週1日、北上済生会病院呼吸器膠原病外来にも勤務。
「スリーナイン・ヤマト世代の私にとって宝物」という松本零士さんのサイン。平成20年、消防庁が募集した漫画コンクールで入選。審査員長が松本氏であったので執筆意欲が一気に増したという。
小林博先生の活動を漫画で紹介。英語や現地のシンハリ語に翻訳され、広く活用されている。
「さらば生活習慣病」、「それゆけ更年期!」、「3年B組熊八先生」の三部作。
熊のキャラクターは千田クリニックのシンボルマークにもなっている。
北上医師会の野球同好会で活躍。(2010年の岩手県医師会親睦野球大会で。前列右端)
「北上医師会」のマークのデザインを担当。きたかみ医報で毎回、描いている執筆者の似顔絵も好評だ。
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