家と人をめぐる視点

第4回

家族と暮らしを分断する「LDK」。

住宅・生活誌「家と人。」編集長 加藤 大志朗

和製英語のLDKは
世界に例のない間取り

日本の代表的な間取りの考え方として知られるLDK。意外にもその歴史は浅く、1951年に公営住宅の標準設計として作られた公営51C型(10.7坪)がルーツとされています。

当時はDをダイニング、Kをキッチンとして食寝分離、就寝分離を図るのが重要なテーマとされ、お風呂、ステンレスキッチンの採用などと進化を遂げながらDK+和室続き間という間取りが公団住宅を中心に全国に普及しました。

その後も、集合住宅では限られたスペースを有効活用する空間構成が繰り返し模索され、リビングと一体化したLDKが戸建て住宅にも拡大し、日本の間取りのスタンダードになっていったのはご存じのとおりです。

LDKは和製英語ですが、その概念は海外でも類似例はなく、あえていうなら日本のワンルームがStudio、1LDKが1Bedroom+1Bathroom、2LDKが2Bedroom+1(もしくは2)Bathroom、3LDKが3Bedroom+1.5Bathroom(1BathroomとMaster BedroomにバスタブなしのBathroom)といえるのかもしれません。

特にアメリカでは、ベッドとバスルームの数で間取りが表示され、Hall(玄関、入口の広間、廊下)、PL(Private Living 家族や夫婦だけで使うリビング)、BR(Bedroom 寝室)、MBR(Master Bedroom 主寝室)、Din(多目的スペース)など、私たちには見なれない表記が見てとれ、日本の間取りと全く概念が異なることがわかります。

洋風でも和風でもない
個室だらけの日本の家

都市部に限らず、地方でも椅子式の生活が普及し、集合、戸建てを問わずL=リビングが造られるようになりました。岩手でも、1枚の畳もない新築住宅は数多く見られます。

しかし、床をフローリングにして椅子やテーブル、ソファなどを設置してもなお、日本人の多くは昔と変わらぬ「座」の暮らしです。ソファを背もたれにし、座ったまま食事をする光景は珍しくありません。世界のどこにも例がなく、わずか60年前に10坪足らずの団地で生まれたLDKに、私たちはいまだ戸惑い続けているのです。

LDKとともに急増したのが、中廊下を挟んで狭い個室が並ぶ「田の字プラン」です。この間取りは、家を分断するだけでなく、自然の光や風までも遮断し、暗く、寒い建物の中にさらに冷たい場所を生み出しました。

戸建てでは、中廊下の延長上に階段やトイレ、浴室などが設けられ、暗く、冷たく、湿気が溜まるトイレ、浴室がヒートショックの多発地帯となり、玄関から家族と会うことなく直接自室に移動できる機能は、家族の気配やふれあいも断ち切ってしまったのです。

個室が集積し、ホテルや病院などの施設と同じ役割をする中廊下を通した家が、家族が暮らすための家に必要なのでしょうか。私たちは今一度、家と家族との関係について、間取りから考え直さなければならないようです。

個室を「孤室」に
しない工夫をする

かつては「ウサギ小屋」と呼ばれた日本の住宅ですが、4人家族で35坪もあれば、ドイツやフランスなどの平均床面積と変わりはありません(図1)。

ただ、欧州では、集合住宅でも寝室以外はほとんど1つの大空間とすることが多く、日本のように狭い面積に狭い個室を並べるような家はありません。「ウサギ小屋」はきっと「想像を超えるほどの小さな部屋」を指したのではないでしょうか。

もともと日本人は一つの空間をふすまや屏風で自在に開閉し、家族の気配を感じながら、相手の感情を察して暮らしてきた民族です。

そんな文化を持つ人たちが集まる家族という集合体が、ある時期から個々に小部屋を造り、そこに閉じこもり、互いの気配すら感じられない空間を家として考えるようになったことは残念でなりません。

LDKや中廊下のある間取りは、個室中心の考え方です。ほんの数年前まで親子で川の字になって寝ていた子どもたちを、新築と同時に子ども室に入れてしまうことが、子育てではないはず。若い世帯の声や生活音まで遮断した老人室も、独立性が高ければ高いほど、お年寄りは監禁されたような寂しい気持ちになるでしょう。

個室が「孤室」になってはいけません。家は子どもやお年寄りのための下宿屋さんではないのです。リビングやキッチン、ダイニングといった言葉にとらわれず、家族の生活の実像をそのまま家にすることが大切ではないかと思っています。

図1 1戸あたりの平均床面積(u)

玄関ホールからすぐにLDKの大空間。階段を空間の中心とし吹き抜けで2階の家族と気配でつながる。

床の素材でさりげないエリア分けを試みたLDK。同じ空間で「座」と「立」のバリエーションで暮らすことができる。廊下のない家でもある。

玄関ドアを開けてすぐに土間、そしてLDK。断熱・気密性能を高めており、これだけの大空間でも温度差はほとんどない。

かとう だいしろう (文・写真)
Daishiro Kato

1956年北海道生まれ。編集者。住宅・生活誌「家と人。」編集長。これまでに約20カ国を訪れ、国際福祉・住宅問題などの分野でルポや写真、エッセイを発表。住宅分野では30年にわたり、温熱環境の整備と居住福祉の実現を唱えてきた。主な著書に『現代の国際福祉 アジアへの接近』(中央法規出版)、『家は夏も冬も旨とすべし』(日本評論社)など。岩手県住宅政策懇話会委員。出版・編集を手掛ける(有)リヴァープレス社代表取締役(盛岡市)。

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