家と人をめぐる視点

第8回

家の性能を決める「窓」。

住宅・生活誌「家と人。」編集長 加藤 大志朗

結露は「瑕疵」とする欧州の考え方

国や地域によって、窓の機能や印象はさまざまです。ヨーロッパの家は伝統的に石造りですので、もともと壁に穴を開けるという発想で窓が造られ、日本では柱と柱の間に建具を入れるという発想で窓が考えられてきました。日本は引き戸が中心で、ヨーロッパでは外や内に開いたり、上下にスライドする、倒したりするなどの窓が多くなるのはそのためです。

ちなみに、「窓=Window」は「風(wind)」(vindr)と「目(eye)」(auga)を表わす古いアイスランド語(「vindauga」)が語源とされ、日本では柱と柱の間に「戸」をはめこんだ造りであることから「間戸(まど)」が語源といわれています。

窓には、多くの機能が求められます。採光・換気・通風・眺望・防水・防火・防犯・遮音などですが、断熱性能も重要な機能の一つです。

窓などの開口部からの熱損失は58%で、外壁15%と換気15%と比較しても圧倒的に大きいことがわかります(図1)。省エネ性能が高く、コールドドラフト(注)を感じない窓の設計が課題とされてきた理由がわかりそうです。


図1 資料 (一社)日本建材・住宅設備産業協会

しかし、日本の窓にはいまも断熱性能に関して最低基準がありません。環境先進国といわれるドイツの4〜5分の1の断熱性能しかない窓が当たり前のように使用されているのです。

窓の結露に悩まされている人は少なくありませんが、ドイツやオーストリアでは窓の結露はもちろんのこと、壁体内の結露においても抑制が図られ「結露を引き起こすのは誤った設計であり、人の健康を害する瑕疵である」という考え方が根底にあります。

結露はカビ・ダニの原因となり、コールドドラフトは冷えを感じて不快なだけでなく、ヒートショックや神経痛の原因になるのは周知の通りです。建築と健康との関係が明確にされ、法規上でも指導されているところに日本との大きな差を感じずにはいられません。

※(注)
【コールドドラフト】暖かい室内の空気が冷たい窓ガラスに触れて冷やされ、床面に下降する現象。室温を高くしても「足元が冷える」ように感じるのは、隙間風よりコールドドラフトが原因であることが多い。

住宅後進国・日本は窓の後進国でもある

冬には高い断熱性能、夏には暑い日差しを遮る(日射遮蔽)性能を持つことが、これからの住宅の基本であることを、ここでも何度か述べてきました。この断熱性能と日射遮蔽性能の向上に最も効果的な対策が窓の性能向上なのです。

窓はサッシ(枠)とガラスで構成されます。日本のガラス製造技術は世界最先端で性能も高く、近年はペアガラス(複層=2重)や特殊金属膜をコーティングし、遮熱と断熱機能に優れた「Low-E複層ガラス」などが普及しています。

問題はサッシの性能です。日本ではいまもアルミニウム製のサッシを使った窓の販売が許可され、日本に5700万戸あるといわれる住宅の8割以上はこの種類の窓です。

断熱基準の厳しい先進国では樹脂サッシが60%を超える国々が大半を占め、例えば米国ニューヨーク州では熱貫流率1.98(W/u・K)以上の性能の窓を使うことが義務付けられ、樹脂(または木製)サッシ(Low-E複層ガラス入り)以上の窓でなければ家を建てることができないなど、法制化されている地域も少なくありません。

しかし、日本における樹脂サッシの普及率は7%(2012)に過ぎず、新築住宅においても売れ筋の7割が性能の低い製品です。断熱性能の目安となる熱伝導率で比較すると、アルミは樹脂の約1000倍も熱を伝えやすく、アルミサッシやアルミ樹脂複合サッシに比べると、樹脂サッシの断熱性能の高さは明らかです。

夏の猛暑日、アルミサッシにふれると火傷をするほど熱くなっていることがわかります。逆に、寒い冬は氷のように冷たくなって、ガラスとともに氷結することも珍しくありません。

暑さのなかではストーブに囲まれ、寒さのなかでは氷に囲まれて生活しているようなものですが、技術先進国であるはずの日本が、どうして住宅建築において、こんなに遅れているのか不思議な気がします。

限られた予算でリフォームする場合にも、最初に内装や水回りに手を出しがちですが、窓を換えるだけで、快適さも光熱費も驚くほど変化します。

樹脂サッシへのリフォームには、いまの窓を樹脂サッシの窓に交換する方法と窓はそのままにして樹脂製内窓で2重窓にする方法がありますが、現在ではドイツ製に匹敵する高性能の窓も販売され、サッシとガラスの性能を同時に考慮することがポイントです。


ヨーロッパの街で必ず目に留まるのが、美しい窓辺の花。窓は室内と外部との環境の接点でもある。


北欧で多く採用される木製3層ガラスは、室内の冷暖房熱を逃がさず、四季を通じて結露もない。横軸回転窓は170度縦に回転するため、外側部分も室内から簡単に拭き掃除できる。


ドイツでは住宅窓の9割以上がドレーキップ窓。ドレーは開き、キップは倒しの意味で「内開き」と「内倒し」の2つの機能を持つ。
引き違いにこだわるのではなく、窓の種類と性能を少し学ぶだけで、家づくりはさらに楽しくなる。

かとう だいしろう (文・写真)
Daishiro Kato

1956年北海道生まれ。編集者。住宅・生活誌「家と人。」編集長。これまでに約20カ国を訪れ、国際福祉・住宅問題などの分野でルポや写真、エッセイを発表。住宅分野では30年にわたり、温熱環境の整備と居住福祉の実現を唱えてきた。主な著書に『現代の国際福祉 アジアへの接近』(中央法規出版)、『家は夏も冬も旨とすべし』(日本評論社)など。岩手県住宅政策懇話会委員。出版・編集を手掛けるリヴァープレス社代表(盛岡市)。

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