家と人をめぐる視点

第19回

隙間の多い住宅では換気は難しいという現実。

編集者 加藤 大志朗

通風・通気と換気を
混乱している日本人

私たちが1日に摂取する飲食物は、量に換算すると約2キロ。これに対して空気は体重50キロの平均的な人の場合、1日の呼吸量で0.5リットル×2万8800回=1万4400リットル、つまり約20キロにもなります。

しかし、私たちは食べ物や水の安全性に気を配っても、多くの時間を過ごす家の中の空気には無頓着。いまも「高気密は害悪で自然換気がベスト」と主張する住宅のプロは多く、伝統的に開放型の家に馴染んできた日本人は、通風・通気には気を使っても、換気に関する正確な知識を持ち合せてはいないように見受けられます。

換気の目的を一言でいうと「窓を開けなくても24時間、機械的に屋内の空気の入れ替えをすること」。2003年、建築基準法により屋内の空気を1時間に0・5回入れ替える換気装置の設置が義務付けられましたが、電気代がもったいないなどの理由で、運転をオフにしているご家庭も多くあります。

屋内の結露、ダニ・カビの発生、PM2.5の侵入、CO2濃度の上昇など弊害が生じますが、大半が目に見えないものだけに、時々窓を開ける程度の換気で済ましてしまうことも少なくないのです。

新型コロナ対策として、テレビでは毎日のように「窓を開けて換気をしてください」と叫んでいますが、北国に住む私たちにとって、窓に依存した換気は寒さを感じるだけでなく、光熱費の増加にも直結します。夜間などはどう対処していいのか聞きたいところですが、換気に関しては依然として誤解が多い様子がうかがえます。

隙間が多いくらいが
健康的…という誤解

家の中の空気が換気されるのは、建物に風圧がかかる場合と屋内外の温度差があるときくらい。そのほかの状態では、窓を全開にしても空気はあまり動かず、外の空気と入れ替わることは難しいのです。

「昔の家は隙間だらけだったので十分に換気された」というのは誤りで、昔の家でシックハウスなどの問題が存在しなかったのは、建材はもちろん、生活の中に化学物質がほとんどなかったからにほかなりません。

現在は建材に含まれるホルムアルデヒドこそ規制されていますが、家具や家電製品から発生する化学物質に関する規制は曖昧で、洗剤や殺虫・防虫剤などは、どれだけの量でどんな化学反応を起こし、どんなふうに健康に影響するのかなど、分からないことが多いとされています。

換気装置の義務化にはこうした背景があったわけですが、効率的に換気を行うには、建物の気密性能と密接な関係があります。

気密性の低い住宅ではサッシや壁や屋根など、あらゆる隙間から空気が出入りし(自然換気または放任換気)、どこから空気を取り入れ、どのくらい出すかといった計画的・定量的な換気が不可能です。給気フィルターも機能せず、エアコンやヒーターで暖めたエネルギーも逃げっぱなしとなります。

針で小さな穴をいくつも開けたストローでジュースを吸おうとすると上手く吸えないのと同じで、気密性が低いと空気の出入りが成り行き任せとなり、計画的な換気は不可能です。

高気密は息苦しいといった印象もありますが、実際、木造建築物で息苦しさなど感じることはなく、24時間、新鮮な空気の中で暮らしている方が健康的ですし、季節を問わず、晴れた日などは、窓を全開にして新鮮な外気を味わえば済む話です。

断熱・気密性能には
必ず数値の裏付けを

換気には、いくつかの種類があります。第一種換気は排気、吸気とも機械を用いる方法で、排気する熱を再利用することで(熱交換)、冷暖房費を削減します。第二種換気は吸気のみ機械で行う方法で、病院の手術室や工場のクリーンルームなどで用いられ、住宅ではあまり採用されません。第三種換気は排気のみを機械で行います。第一種換気に比べ割安なことから最も多く普及している方法です。このほか、気圧差、温度差、風圧など自然の力を利用したパッシブ換気もありますが、この手法は高いレベルの断熱・気密性の確保によってのみ可能となります。

徹底的に熱損失を抑えるならば第一種換気、ローコストで安定した換気性能を確保する場合は第三種換気といった具合に選択しますが、省エネのためだけに予算を超えた性能の担保、設備導入となると本末転倒ですので、あくまで予算とのバランスを考慮したいところです。


※参照 日本スティーベル(株)HP

札幌市では地域特性に応じた温暖化対策を推進するため独自の高断熱・高気密住宅の基準「札幌版次世代住宅基準」を策定し、外皮平均熱貫流率(UA値)、一次エネルギー消費量、相当隙間面積(C値)などの指標で、新築住宅は5段階、改修住宅は3段階の等級を設定しています。

同基準では、新築住宅は最低レベルで1.0㎠/㎡以下、最高レベルで0.5㎠/㎡以下、改修住宅でも最低レベル5.0㎠/㎡、最高レベル2.0㎠/㎡以下の気密性能を求めていますが、気候的にさほど変わらない盛岡でも、これらの数値はクリアしたいところです。

住宅性能にも数値の裏付けが必要であることは、このコーナーでも再三述べてきたことですが、気密性能にも同じことがいえます。1棟ごとに気密測定を実施し、数値的な裏付けを──と、30年以上も前から訴えてきましたが(あくまで肌感覚だけで申し上げることを許していただければ)気密測定をした上で引き渡される住宅の割合は、全体の5%に満たないのではないかというのが実感です。


かとう だいしろう (文・写真)
Daishiro Kato

1956年北海道生まれ。編集者。これまでに25カ国を訪れ、国際福祉・住宅問題などの分野でルポや写真、エッセイを発表。住宅分野では30年以上にわたり、温熱環境の整備と居住福祉の実現を唱えてきた。主な著書に『現代の国際福祉 アジアへの接近』(中央法規出版)、『家は夏も冬も旨とすべし』(日本評論社)など。出版・編集を手掛けるリヴァープレス社代表(盛岡市)。

相当隙間面積=C値は建物全体にある隙間面積(㎠)を延床面積(㎡)で割った数値で、建物の気密性能の指標として用いられる。実際に建てられた建物内で気密測定試験機を使って測定され、数値が小さいほど高い気密性を示す。

第一種換気装置の熱(温度)交換率は90%前後。輸入・国産品を問わず、性能が向上してきた。熱交換率90%とは、外気温が0℃、室温が20℃だった場合、外気温を0℃のまま給気せず、18℃まで暖めてから室内に給気することができる、という意味。

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