ビジネス・ウォッチング 〜職場訪問記〜 vol.5
医療廃棄物処理事業協力会
産業廃棄物関連の数々の法整備が進むなかで、完全処理が求められる医療廃棄物は医療関係者にとって重要な課題です。今号で紹介する医療廃棄物処理事業協力会は回収から運搬、処理まで、いわて医師協同組合(以下・医師協)が指定する業者(岩手県知事または盛岡市長認可)で構成され、安全・安心な処理業務を行うことで医師協組合員の皆さんの信頼をいただいています。
廃棄物処理法の改正
医療系廃棄物処理事業を開始
日々、医療業務に携わる医師協の組合員の皆さんにとって、重要な課題の一つが廃棄物の処理です。世界規模で地球環境が注目されている今、循環型社会を推進させる基本法の制定など廃棄物関連の数々の法が整備されています。
その中でも、医療系廃棄物は二次感染の徹底防止に向けて、平成元年に当時の厚生省のガイドライン「医療廃棄物の適正処理」に沿って完全処理が求められるようになり、一層処理責任を明確にする必要が生じました。
さらに平成4年7月に廃棄物処理及び清掃に関する法律が改正され、「感染性廃棄物を含む特別管理産業廃棄物制度」が新設されました。それ以前は特に規定はなく、実際の処理・処分は医療関係者の自主的判断にゆだねられていたほか、法令上は不燃物として扱われていたのです。
このような時代の流れに即応し、医師協では平成3年に医療系廃棄物処理対策委員会を設置。「いわて医師協だより」で医療廃棄物処理のガイドラインの周知徹底を図るとともに、岩手県域の医療廃棄物(特に感染性廃棄物)の処理実態を調査しました。
その結果を踏まえて、平成6年4月に収集運搬業者2業者の協力を得て盛岡地区をパイロットとして医療系廃棄物処理事業をスタート。当時の委託組合員数は120事業所でした。
いわて産業廃棄物協同組合の設立と医療廃棄物部会
平成6年4月にいわて産業廃棄物協同組合(組合傘下会員4業者)が設立されると、その中に医療系廃棄物の処理事業を行う「医療廃棄物部会」が設置され、平成9年には医師協において新たに収集運搬業者4業者を指定業者にして県内全域を対象に事業を拡大しました。
平成13年の廃棄物処理法の改正では、@廃棄物の適正処理のための施策推進Aマニフェスト(産業廃棄物処理管理票)制度の強化B原状回復のため措置命令の強化(不法投棄等)C)野外焼却の直罰化(ダイオキシン発生の問題等)が義務付けられます。
この法改正に伴い、医療系廃棄物処理事業の推進と適正処理に向け、また県内業者との連携を保つため、いわて産業廃棄物協同組合と医師協は産業廃棄物処理の業務提携を行いました。
以来、いわて産業廃棄物協同組合は処理方法と収集・運搬業者の取りまとめを行い、医師協は組合員にいわて産業廃棄物協同組合の会員である業者を推薦し、事業運営の窓口業務、処理代金請求事務を担当してきました。
10年の活動を経て平成23年3月にいわて産業廃棄物協同組合は解散となりましたが、今後の処理事業運営に支障を来たすのではないかという懸念もあり、業者の強い要望もあって同年4月、新たに医療廃棄物処理事業協力会を発足し、今日に至っています。
医療廃棄物処理事業体系図
業者に選ばれた誇りと責任
ネットワークをより強固に
発足から8年を迎える医療廃棄物処理事業協力会(以下・協力会)の会員は現在10社で構成されています。産業廃棄物処理業者の中でも医療系廃棄物処理の許可を有していること、さらに岩手県産業廃棄物処理業者育成センターによる格付業者であることが条件になっています。
「現在、全国の格付基準は統一されましたが、岩手単独当時での格付基準は現行の全国基準より高いレベルでした。県内許可業者1900社余りのうち格付業者は104社。もちろん、協力会の10社はすべて格付を取得しています。信頼のおける業者でないと組合員の先生方にご紹介できませんからね」と、医師協の坂本事務局長は協力会の業者に信頼を寄せています。
協力会では医療系廃棄物の適正処理のための普及・啓発、法律の勉強会や各界の講師を招いた研修会などを随時開催しており、2019年2月8日に行われた研修会には県内全域から10社中8社の代表が参加しました。盛岡市に中間処理場を持ち、運搬・処理業務を行っている株式会社環境整備の野口剛さんもその一人。「回収、運搬、処理と10社の業務は関わり合うことも多いので、お互いの連携は欠かせません」と話します。
また、県内各地の回収業務に携わっている一関市のニッコー・ファインメック株式会社の小野寺真澄さんは、「県内の医療行為に携わる皆さんの適正処理に対する意識は高いので、処理に関しても問題なく流れていますが、時には針刺し事故が起きることがあるので、適正な廃棄の方法については定期的にお願いしているところです」と、より慎重な取り扱いに心を砕いています。
毎年開催している研修会には会員の出席率も良く、小野寺さんは「医療機関の廃棄物は特殊性があり、排出される方、業者ともに情報の共有が必要だと思いますし、私たちも知識を高めていかなければなりません。選ばれ、認められて協力会に入っている10社だからこそお会いできる貴重な機会を生かし、勉強会などで情報交換を活発にし、会員個社のレベルアップをはかりたいと思います」と、笑顔で話します。
平成28年4月、水銀廃棄物の処理方法等を含めた法令改正が行われました。それに伴い、岩手県医師会が同年6月に水銀廃棄物回収の通知を行い、医師協が事務委託を受け9月から11月まで回収事業を行いましたが、世界的に環境問題への関心が高まる中、今後も法改正が予想されます。
株式会社環境整備の野口さんは「法改正があると病院だけでなく自治体などからも問い合わせがあります。専門用語はなるべくかみ砕いて情報提供をしていきたいし、毎日の診療でお忙しい病院の先生方には、医療系廃棄物に関しては任せると信頼していただければと思います。せっかく回収から処理まで県内10社のネットワークがあるので、これからは何か新しいことができたらいいなと考えています。例えばリサイクルなどボランティア的な活動もできるのではないかと思うんです」と、協力会のさらなる広がりを考案中です。
医療系廃棄物が適正に処理されなかったり不法投棄された場合、委託された業者だけでなく、廃棄物を出した医療機関の責任も問われます。処理ルートの管理を安心して任せられるように、今こそ排出事業所(医療機関)と処理業者が強い信頼関係のもと、一体となった廃棄物の適正処理が求められています。
左から滑ツ境整備の野口剛さんとニッコー・ファインメック鰍フ小野寺真澄さん
2月8日に開催された協力会の新春研修会
研修会のテーマは「健康経営・働き方改革」の推進に向けて