特集

「生命保険を科学する」

ドクターの陥りやすい落とし穴(3)

〜医療保険及びガン保険は「契約者に注意」が必要です〜

株式会社インシュアランス・ラボラトリー 
代表取締役 佐 藤 正 彦

 今回は多くの先生が関心をもたれている医療保険とガン保険について、今までとは異なる切り口からご説明します。今回は法人で契約する場合の注意点を中心にお話いたします。
 法人成りされている先生はもちろんのこと、まだ法人成りされていらっしゃらない先生も参考になりますので、是非お読みください。

■陥りやすい落とし穴 その3■

 「C先生は、医療保険やガン保険を法人契約にすると、保険料を全額損金処理できるとの勧めで、入院給付金日額2万円の医療保険と同じく日額2万円のガン保険に医療法人の契約で加入しました」

一般的な終身保険は保険料を損金処理することはできないのですが、同じ終身タイプでも医療保険やガン保険でしたら、終身払いに限り全額損金処理が認められています。そこで、個人で支払うより大きなメリットがあるということで法人契約にされている例をよく見かけます。会計事務所などでも、そのような契約を勧める場合があるようですが・・・

果たして本当にそうでしょうか?・・・
使うときのことを考えてみましょう。

 C先生が、ガンで2ヶ月入院しました。そこで、入院給付金、手術給付金、ガン診断給付金を保険会社へ請求しました。受取人は医療法人となります。

図1

●法人契約の場合、受取人は医療法人です。医療法人が、受取った入院給付金や手術給付金、診断給付金をそのままC先生個人に払い出したらどのようになるでしょう?

⇒そのまま先生個人に払い出すと、その費用は給与扱いとなってしまい、先生個人の所得税の対象となってしまいます。先生の課税所得が1,800万円以上ですと、住民税と合わせて最高税率の50%を支払わなくてはなりません。300万円は税金になってしまいます。

●医療法人の法人税はどうなるのでしょうか?

⇒残念ながら、受取った600万円の殆どは法人税の対象となってしまいます。医療法人側としてはその600万円を「益金」として処理しますので、法人税の対象になってしまうわけです。法人から個人へは見舞金として社会通念上相当額(10万円〜20万円くらいでしょうか)だけ、損金として認められますが、それ以外は益金となります。

従って、受取り時には、法人税+所得税のダブルパンチとなってしまうわけです!

図2

●では、先生個人で加入していたらどうでしょう?

⇒全額600万円は直接C先生に支払われます。しかも医療関係の給付金ですので、所得税・住民税は非課税です。まるまる600万円使えるというわけですね。

 このように法人契約の場合、支払う段階では確かに節税できますが、いざ利用する段階での課税に大きな違いが生じます。何のために加入しているのか目的を考えると、医療保険やガン保険は個人での契約をお勧めいたします。

 また、以下のような点にもご注意ください。

●法人契約で節税をはかり、入院したら個人に契約者変更する、というのはどうでしょう?

⇒入院してしまうと、契約者変更することはできませんのでご注意ください。また、契約者変更する場合は、解約返戻金(貯蓄部分)相当額で法人から買取る形になりますので、もしも法人契約されていらっしゃる先生は早めに個人に契約者変更することをご検討ください。

●終身タイプの医療保険で、終身払いではなく、60歳や65歳で支払いの終わるものはどうなりますか?

⇒終身タイプで終身払いの場合だけ全額損金処理が認められます。60歳や65歳の短期払いの終身タイプは全額損金処理することができません。少し難しい計算式での一部損金処理となります。税務調査のときなどに指摘されることがありますので、経理処理を間違えている場合は早めに修正ください。

●職員を加入させている場合はどう考えたらいいでしょう?

⇒職員に対しても全く同じです。使うときには益金として法人税の対象になりますし、無税では見舞金程度しか支払えません。また職員側も給与扱いとなり、職員の所得税の対象になってしまいます。

●退職金の積立として、職員を加入させるのはどうでしょう?

⇒これも時折見かける契約形態です。損金処理(節税)しながら解約返戻金を貯め、職員の退職金の支払い原資にする、ということでしょうが、実態には合っていないと思います。と言いますのは、実際職員さんは2、3年でやめる方が多く、退職金を支払わないことが多いこと、例え払うにしても、3年くらいでは解約返戻金が大きくは貯まっておらず、実質返戻率が100%を超えないのが実態です。つまり、保険を利用した方が損になる場合が多いということです。

⇒さらに職員が退職したのに、その保険を払い続けていると、税務調査で指摘を受けます。ということは、そのまま払い続けて返戻率が100%超えるのを待つということはできないということになります。

■ポイント■

 一般の中小法人等では、経営者の入院による売り上げ減少カバーの目的で、一部医療保険を法人契約されている場合も見受けられますが、医療法人に関しては、医療保険は個人契約された方が効果的です。法人で契約している死亡保障の生命保険に、入院特約が付加されているのをよく見かけます。何気なく当たり前のように付加されていますので一度よく点検してみてください。
 さらには入院に限らずある一定期間就業ができない場合の所得をカバーしてくれる所得補償保険(損害保険)もお忘れなく・・・。

 次回、特集は「陥りやすい落とし穴 その4〜医療保険選びのポイントと新視点〜」