第8回 猫に教わることもある
岩手郡医師会
医療法人徳政堂 佐渡医院 佐渡 豊
大の猫嫌いが、大の猫好きになってしまった。
我が家の猫「フーちゃん」は、ノルウェイジャン・フォレスト・キャットという種類である。4年程前に、隣の獣医さんのお世話で、出入りのお客さんから頂いたものである。ふかふかの長毛、前脚が後脚よりもかなり短く、前足は外に向き、胸の筋肉が発達、木登りが得意、肉球の間から毛がはみ出している。このことから察せられるように先祖は、雪深い斜面の多いノルウェイの森に暮らしていたという。大型種ゆえに、「うわっ、大きい。」「タヌキ」「メタボ」とは、来客の第一声である。メタボを是正指導する職にあることと、「フーちゃん」の名誉を守るために、「寒い地方の動物は大型化する」「餌は所要量以上には与えていない。」「コンテスト級のものも、8〜9sはしている」と弁解に努めることとなる。
大きな外観に似合わず、温和で我慢強い、人懐っこい性格を持っている。お客さんが大好きで、喜んで擦り寄っていく。
普段は眠っていて動かない。カロリーの消費を極限まで抑えているのだ。余程の突然の危機、獲物の出現等を除いては、すぐに逃げたり、飛び出したりはしない。しかし、一旦その場面が到来すると、ここぞの猛ダッシュを見せる。ここは猫科のライオン、トラ、ヒョウ、チーター等と同じである。
食物を与えても、犬みたいにすぐにガツガツと飛びつかない。トイレに行く時でさえも、慌てて直行はしない。立ち止まり、立ち止まり、坐り、あたりを見回してゆっくりと動いていく。猫じゃらしで挑発しても、すぐには飛びつかない。関心のない素振をしながら、スキを見て飛びついてくる。
野生の時代に、あたりに潜む敵から我が身を守ったり、獲物を効率よく獲るために摺り込まれたDNAなのだろう。猫がのっそり、ゆっくりとあたりを見回しながら音もなく、悠然と歩く様は、威風堂々、ライオンをほうふつとさせる。賢人の趣か。事に処して「こんな時にもっと間を取って慌てずに状況を良く見て…」と軽挙妄動、思慮に欠ける行動を戒めているように見える。本能に根ざした生き残りの為の知恵だから、なかなかの説得力がある。
長い人生、その過程において、様々な人との出会いがあり、その一人一人から、良くも悪くも多くの処世術を学んで来た。猫に教わることもあるものだ。しかしながら、猫かぶり、猫なで声、擦り寄り等の行動は、見た目も語感としても美しくはない。こちらの方は、反面教師として、処世には取り入れたくないものである。
フーちゃん