人物クローズアップ vol.15
「剣医一如」で進む一筋の道
医療と剣道の両輪を頑張ることで
共に高めることができるのです
菅整形外科医院院長
菅 義行(北上医師会)
アメリカで学んだ郊外型の病院
整形外科医が今できること
北上市江釣子に開院して今年は20年目になります。今でこそ広い道路も通り、周辺は住宅地になっていますが、当時は何もなくて田んぼばかりでしたから患者さんは誰も来ないだろうと言われました(笑)。こういう郊外型の病院はアメリカに留学したときに学んだものです。駐車場を広くとった環境のいい場所に病院を建てて、入院用のベッドを置かず、外来で診断を行って中枢病院に患者さんを送る病診連携のシステムは、やがて岩手でも構築されていくだろう。そう考えてのことで、実際に今、北上市は県立中部病院、北上済生会病院との連携がスムーズに進んでいます。
整形外科医として、私が今関わっていることの一つは、「学校における運動器検診」です。最近、手足や腰の運動で使い過ぎの子供と、運動器が十分に機能していない子供の二極化が問題になっています。平成17年度からモデル事業が始まり、26年度から脊柱と胸部検診に加えて、障害の多い四肢検診が必須事項になりました。私は北上市内の学校で校医の先生方の補助をしながら、整形外科医の立場からアドバイスしています。気になるのは、岩手県の子供たちに肥満児が多いこと。現代っ子の特色ですが、ゲームなど遊びも家の中ですることが多く、学校の統廃合によりスクールバスや親の車で送迎していることも影響を与えている。岩手県の大きな課題として行政、医師会、学校関係者、父母会、整形外科医会が話し合い、連携していくためにも運動器検診は重要なんです。この7月には下関市で開催される日本臨床整形外科学会において、28年度からの実施に向けて運動器検診・学校検診のシンポジウムが開催されますので、私も東北を代表して「岩手県の運動器検診への取り組み」を発表してきます。
41歳からのリバイバル剣士
剣道教士七段に昇格
私は子供の頃からスポーツが好きで、野球、相撲、水泳、陸上といろんなスポーツをやっていました。小学校3年生の時、体育館の窓から「面!」「ヤー!」と聞こえてきた掛け声と剣士の凛々しい姿に強く魅かれ、自分も剣道をやりたいと思った。でも、当時は道場もなく、指導者もいなかったので人づてに教えてくれる人を探して、朝6時から7時まで土の駐車場での練習。雪のない時季だけの青空道場です。6年生の頃から現在の岩手県剣道連盟会長の菅崎吉雄先生に本格的に教えていただくようになり、そこから剣道とは離れられなくなりました。
中学では県中体連で初優勝、高校時代はインターハイに3回と国体に出場できたのも素晴らしい恩師や仲間に恵まれたお陰だと思っています。大学卒業後は17年間、剣道から遠ざかっていましたが、平成8年の開院をきっかけに子供と一緒に剣道をやろうと決意しました。41歳の中年リバイバル剣士です。再開から6年目で六段審査に挑戦し、2回目で合格できたことで十分満足していたのですが、次の年の県民大会でアキレス腱を断裂して「精神面の弱さ」に気づき、その修業のためにも七段に挑戦しました。53歳で初挑戦した七段審査の年は、学会のシンポジストや医学雑誌の投稿などで忙しく、指導稽古に集中せざるを得ませんでした。それでも恩師から指摘していただいた悪癖を徹底的に強制することと、機会の見極めを心がけるという二つの課題に向かい合い、深める稽古を続けて剣道教士七段に合格することができました。
現在は診療後に江釣子中学校で週2回、北上市の修練館で週末に指導や稽古に出向いています。平成30年には全日本剣道大会が岩手県で開催されるので稽古にも熱が入ります。私が目指すのは「感動する1本」。勝てばいいという競技スポーツではなく、打つ者も打たれる者も、見ている方々も感動する1本でありたい。剣道の最高位は八段ですが、医師では全国に二人しかいません。昨年、剣道八段範士の全日本医師剣道連盟の湯村正仁先生から「剣道八段への道を目指しなさい」と叱咤激励され、厳しい稽古もしていただきました。3年後と、私はその目標を定めています。
還暦を機に新しい医療機器を導入
「剣医一如」で地域医療に邁進
私は剣道と医療の道は相通じるものだと思っています。剣道を通して自分自身の修業度がわかり、剣道の悪い面を治すと診療面にも変化が起きてきます。すなわち、剣道を通して自分の欠点を見つめることになり、それが医療にも生かされて質が高まる。その逆も真なりで、まさに「剣医一如」の両輪を頑張ることで、共に高まっていくのだと実感しています。
私は今年還暦を迎えました。そこで心機一転、MRIやレントゲン、エコーなどの医療機器を新しく入れ替え、2年かけて電子カルテも導入しました。還暦を節目に、スタッフとともに地域医療のためにこれからも一生懸命頑張っていこうという決意表明でもあります。
医療の質向上を目指してスタッフの充実を図る新しい体制もスタートさせました。リウマチケア看護師6名、運動器リハビリテーションセラピスト3名、転倒予防指導者3名、ホームヘルパー養成研修2級のリハビリ助手3名を揃え、それぞれ専門性を深めながら仕事の質を高めています。また、県内では数少ないリハビリ理学療法士兼日本体育協会公認のアスレチックトレーナーもいますので、国体やインターハイなどに帯同で送り込み、選手の障害予防に努めています。
平成26年4月に設立された「日本転倒予防学会」では、医療チームを中心に多職種が連携した社会的課題の研究が始まっています。私も評議員になっており、2年後には日本転倒予防学会が岩手県で開催されます。日々の診療に加え、運動器検診、転倒予防学会、そして剣道と忙しい毎日が続きますが、「剣医一如」で、これからもスタッフ共々励んでいきたいと思います。
かん・よしゆき
1955年北上市生まれ。1981年帝京大学医学部卒業後、聖路加国際病院で5年間レジデント。1986年、アメリカのルイジアナ州立大学へ留学。1987年に岩手医科大学整形外科教室に入局。その後、県立山田病院など県内の病院に勤務し、1996年11月に北上市江釣子に菅整形外科医院を開院。日本整形外科学会専門医、スポーツ認定医、リウマチ認定医、日本医師会健康スポーツ認定医・産業医、日本体育協会公認スポーツドクター、日本転倒予防学会評議員。北上市剣道協会副会長、剣道教士七段。
診察室と医療クラーク
大きく窓をとった明るい待合室
自宅にある小道場。時間を見つけて稽古に励む
第111回 全日本剣道演武大会(平成27年5月2日〜5日 武徳殿)(右が本人)
運動療法機器が充実したリハビリ室
新規導入したオープン型MRI
菅整形外科医院
〒024ー0035
北上市江釣子16-51-2
TEL.0197-77-5110 FAX.0197-77-5134
【診療科目】
整形外科・リウマチ科・外科・リハビリテーション科
【診療時間】
月〜金 午前8:30〜午後12:00
午後2:00〜午後 5:30
土 午前8:30〜午前11:45
【休診日】
日曜・祝祭日 第1・第3水曜日;p>