地区だより(5)
蘭梅山と配志和神社
一関市医師会 長 澤 茂
蘭梅山は一関市の西側に位置し、駅を背にすると南北に広がりを見せ、夕焼けに浮かぶ姿が美しい。歴史は古く菅原道真の子・敦茂が当地にて日々を送った際、蘭梅を植えたことが名の由来となっている。この麓に鎮座するのが配志和神社である。400段を超える石段、そして老木の生い茂った坂を登っていくと正面に拝殿があり、その左右に樹齢千年を超える夫婦杉が御神木として聳え立つ。
我々が幼いころは現代のハイカラな遊びは無く、四季を問わず彼の地で遊びほうけた。長い階段の北面はスキーやそり遊び、雪が解けると山の中を駆け巡った。当時の降雪量は現在と格段の違いがあり、家からスキーを履いて途切れることの無い雪道を神社まで歩いたことを記憶している。杉の木立はチャンバラゴッコの格好の場で、首から風呂敷をなびかせ出来るだけ真っ直ぐな枝を腰に差し、御神木も委細かまわず登ったり、隠れたり、飛び降りたり。そして階段の南斜面は神社まで大きくカーブする遊歩道が在り、いまは道が整備され神社の間近まで車でも登れるようになった。
北側の斜面は植林のため冬のゲレンデは昔日の一コマとなったが、他はほぼ50年前と同じである。社務所を左手に見て上り口に立つと季節を問わずシーンとした冷気が体を通り抜ける。最初は広めの石段。これに続く100段ほどはこの半分幅のもので、歩幅とのリズムが合わせにくい。四分の一のところに小さな池と石の橋がかかっている。蛙やサンショウウオの卵が懐かしく思い出される。石段が細かく狭くなるのはここからである。
うっそうとした古木が空を覆って、身体の隅々まで森の息吹が染み渡る。少しずつ少しずつ歩を進めていくが、息が上がってくる。まだか? と上をみるが急峻な石段とわずかな空が覗くだけ。膝の蝶番がカクカクと危険信号を発するころ、やっと神社が見えてくる。平坦なところがこれほど楽かと思うほど、感激である。息を整え、南にコースを取れば遊歩道。北は中里に抜ける山道。懐かしく豊かな散策路であり、私にとっては時の流れを教えてくれる山でもある。