クリニックのマーケティングを考える(1)
医療機関になぜマーケティングが必要なのか?
(株)リスクマネジメント・ラボラトリー
北海道・東北本部長 渡辺 徹
今回から、「クリニックのマーケティングを考える」と称して、(患者さん)満足の獲得を中心とした医業経営のマーケティング戦略について、様々な切り口から考えていきたいと思います。
一般企業にとってマーケティングは1970年代から本格的に導入され、その後の企業成長を支えてきた考え方です。今では企業経営の根幹となる社員全員に浸透している当たり前の考えですが、なぜか未だに金融機関や医療機関には本格的には浸透していないのが実態のようです。
マーケティングという考え方はどこから生まれてきたの?
「マーケティング」とは「顧客を中心に据えた企業活動全体(非営利団体の活動も含む)」というのが、教科書的な短い説明になるでしょう。でも、本音で語らなければわかりにくいですよね。誤解や語弊を恐れずに説明してみると、次のようになると思います。
経営は売上を上げなければ成り立ちません。あまり努力しなくても商品やサービスを提供するだけで売れるなら、それで問題はないでしょう。逆に無駄なコストを掛けて売っていたのではいい経営とはいえないかもしれません。かつてはそんなふうに売れる時代でした。
ところが、何の努力もなしにでは売れなくなってしまったのです。お客様の状況と企業の競合状況に変化が生じてきたのです。それはどのような変化でしょうか。お客様の変化は「成熟度」です。お客様がもつ情報の量や質が高度化したことによる「成熟」です。お客様が成熟するとどのような行動を取るのでしょうか? それは「選択する」という行動です。つまり、商品やサービスを選ぶという行動をとるようになります。コラムをお読みの先生方も、車もゴルフクラブもレストランも「選択」されているのではないでしょうか。競合状況の変化も同じことを生み出します。競合が激化してくると、お客様の取り合いが始まります。それは、お客様側から見れば「選択する」ということになりますね。
そうすると、ただ商品やサービスを提供していただけでは売れなくなってしまいます。そこで、お客様が何を望んでいるのかを調べたり、売り方を工夫したり、広告で広く知ってもらったり、最近では満足してもらうためのアフターフォローに力をいれたりするようになったわけです。
つまり、お客様に価値を提供し、正当に評価され、将来にわたって顧客との良好な関係を構築していこうという考え方がマーケティングであり、そうしなければ選んでもらえなくなるというのがマーケティングの生まれた背景です。企業(医療機関)の存在意義を「顧客(患者さん)を中心」に考えようということがマーケティングだと私は思います。金融機関や医療機関にマーケティングの考え方が本格的には浸透していないのは、お客様の持っている情報がまだ少ない(提供側にかなわない)、競合が緊迫していないからだと思われます。
クリニック経営になぜマーケティングが必要なのか?
現在、クリニック経営が置かれている状況はいかがでしょうか。少し警鐘をならす意味で厳しく想像してみましょう。経営の根幹は医業収入(一般企業の売上)です。医業収入は単価と人数の掛け算で表すことができます。
医業収入(売上)=単価(診療報酬)×人数(来院患者数)
この掛け算の部品ごとに、将来を予想してみましょう。
- 単価(診療報酬)は将来的に上がっていくことが予想できるでしょうか? 現状の医療環境ではあまり期待できないのではないでしょうか。
- 来院数はどうでしょうか? 毎年5000軒を超える開業ラッシュです。近くに同じ標榜科目が開業、という話はよく聞かれますよね。開業が多くなると診療圏が狭まり、結果として患者数が減少傾向に、という図式になります。
- さらに、自己負担の増加による影響はどうでしょうか。本人も3割負担になりましたし、今後お年寄りの自己負担が大きな問題です。自己負担が大きくなるとなかなか簡単には来院しなくなり、患者回転数が下降傾向になります。
今後考えられることは、何もしなければ以上のような状況です。「単価減少×患者減少×回転数減少」という図式を、表現はお許しいただきたいのですが、警鐘を鳴らす意味で私は「ドクターの3重苦」と呼んでいます。
患者さんのことを知り、良好な関係を築かなければ医業収益は下降の一途、これはまさに一般企業でマーケティングという考え方が発生したときと同じ状況ではないでしょうか。 つまり、医療機関でもいよいよ本格的にマーケティングの考え方を導入した経営が求められる状況になったと言えるでしょう。
次回からは、患者さんは何を不満に思い、何を望んでいるのか、何をどう伝えたらいいのかなど、患者満足度アップのための工夫を、できる限り具体的に事例をご紹介しながらお伝えしていきたいと考えています。どうぞご期待ください。